平成27年度 博学連携推進モデル事業

高校生が調べる鳥居龍藏II ―「日本人論」の現段階と鳥居龍蔵―

 鳥居龍蔵記念博物館における博学連携のあり方を探るため、特定の学校とタイアップして行う事業です。

○実施期間 2015年5月~2016年2月
○対象校・学年等 徳島市立高等学校1~3年生(歴史研究部員)
○内容
 26年度に取り組んだ鳥居龍蔵研究を発展させることを目指します。鳥居龍蔵とそれ以後の日本人起源論を比較し、鳥居の学説の今日的な意義を考えていくことにしています。今年度は、平成27年度文化庁地域の核となる美術館・歴史博物館支援事業「鳥居龍蔵記念博物館パワーアップ事業II」における講演会開催事業に組み込むことにし、2月に成果発表の機会を持つ予定です。
■5月
 今年度の取り組み方について、当館と徳島市立高校との協議を重ねました。が、なかなか具体的な取り組みに着手できずに日々が過ぎていきました…。
■7月14日(火)
 ようやく初めてのプログラムを実施しました。
 今回は、徳島大学総合科学部を訪ね、鳥居龍蔵の学史上の位置づけを学ぶため、考古学を専門とされている中村豊さん(徳島大学大学院ソシオ・アーツ・アンド・サイエンス研究部准教授)に講義をお願いしました。参加者は、フレッシュな1年生を含む歴史研究部員6人、先生1人でした。
 現在の考古学における鳥居龍蔵に対するマイナス評価への疑問、反証としての山内清男との関係を指摘し、鳥居龍蔵とその研究を位置づけるための視点を提示していただきました。

 
  中村さんの講義を聞いている様子
■8月27日(木)
 夏休み終盤になりましたが、高校生たちに当館に集まってもらいました。
 今回は、鳥居龍蔵の日本人論と徳島市城山貝塚調査の関係について、湯浅利彦さん(徳島県立小松島高等学校長)に講義をお願いしました。参加者は、歴史研究部員7人、先生1人でした。
 鳥居龍蔵の『有史以前の日本』に示された日本人起源論、城山貝塚調査とその成果を、豊富な資料をもとに紹介いただきました。講義に関連し、当館や県立博物館が所蔵する実物資料も見てもらいました。

湯浅さんの講義を聞いている様子  『有史以前の日本』(改訂版)を示す湯浅さん
 
説明のための板書(鳥居説の概要) 
■11月20日(金)
 市高祭やテストなどで、高校生たちが多忙な時期が続き、しばし足踏み状態でしたが、歴史研究部のミーティングがありました。
 鳥居龍蔵の研究のもつ意味を考えるためには、彼の見解を確かめる必要があります。そこで、鳥居の主著であり、大正期のベストセラーにもなった『有史以前の日本』を読んでみることになりました。また、日本史の教科書の記述に鳥居の考え方が残っているのかいないのかなどということも調べてみて、鳥居の位置づけを考えてみることにも…。一線の研究者のお話を聞いてみたいという声もあり、当館のほうでも検討することにしました。
 これから彼ら/彼女らの奮闘が続くことと思います。期待しています。
■12月28日(月)
 年末でしたが、歴史研究部員7人、先生1人が来館してくれました。湯浅さんから説明を受けたことのある鳥居龍蔵の城山貝塚調査について、資料を見たいということだったので、鳥居が報告書にまとめるつもりだったと思われる調査写真を見てもらいました。そして勢いがつき、そのまま現地へ行こうということに…。館長の案内で、ミニ・フィールドワークができました。資料を見たり、現地を歩いたりするときの高校生の目の輝きはほんとうにすばらしいものでした。ホンモノの力を実感した時間でした。
これまでのまとめをしているところ 資料を閲覧中
 
城山貝塚にある鳥居龍蔵記念碑の前で 
■2月6日(土)
 来る2月21日(日)に開催される講演会「鳥居龍蔵の再発見―国内外の視点から―」の第1部は高校生の出番。校内での議論を重ね、いろいろと頭を悩ませているこの頃のようです。そんな中、2月6日(土)には、男子生徒二人が来館し、企画展「鳥居龍蔵―世界に広がる知の遺産―」を見学し、さらに、県立博物館が所蔵している笠井新也の城山貝塚調査の記録を閲覧していきました。彼らの思考の一助になることを願います。
■2月7日(日)
 鳥居龍蔵の日本人起源論の位置づけを考えるため、現代の研究の第一線について学ぼうという趣旨で、京都へ行きました。目指すは京都大学百周年時計台記念館。ここの一室にて、名誉教授の片山一道先生から「骨が語る日本人の歴史」という講義を受けました。人骨のレプリカやスライドを用いて、長年のご研究のエッセンスを分かりやすく説明をいただきました。さらに、キャンパス内の北白川遺跡を案内いただき、ここを調査した濱田耕作のことにも言及いただきました。先生を囲んでの質問が続き、高校生たちは大いに刺激を受けたようでした。
   
時計台記念館入口の案内表示 人骨(レプリカ)を手に講義される片山先生
 一生懸命聞いています 北白川遺跡の説明をいただいているところ 
時計台をバックに片山先生を囲んで 
2月16日(火)
 発表に向けての追い込みの時期です。高校生たちは、連日、文献を読み直し、ディスカッションを繰り返しています。14日(日)には、天羽利夫さん(鳥居龍蔵を語る会代表)や中村豊さん(徳島大学准教授)のお話を聞き、鳥居龍蔵の位置づけを考えなおしました。
 たいへんな状況だとは思いましたが、進捗状況が気になるし、激励したいと思ったので、当館担当者は、作業中のところへお邪魔してきました。さながら大学のゼミ合宿のような雰囲気…。若い感性がとらえた鳥居龍蔵のイメージが語られることを楽しみにしています。
 
高校生が論文を読み、議論したレジュメ。充実しています。
2月20日(土)
 いよいよ発表前日。講演会第2部でお話をいただくラファエル・アバ先生(スペイン国立セビリア大学)が市立高校を訪問しました。アバさんも高校生も喜んで、ディスカッションの時間を過ごしました。
 この後、高校生の準備は深夜に及んだのでした…。
 
アバさんを囲んで
■2月21日(日)
 ついに講演会「鳥居龍蔵の再発見―国内外の視点から―」の当日となりました。第1部に出番のある高校生たちは、ほとんど眠る間もなく準備したようですが、疲れを見せずに会場入りしました。
 今年度は、鳥居龍蔵の日本人起源論と向き合うという、たいへん大きな課題を背負いましたが、研究者の講義を聞き、現地を歩き、『有史以前の日本』をはじめとする鳥居の著作や人類学史・考古学史の本・論文を読み、考え、議論してこの日に至りました。
 発表では、密度の高い取り組みを余すところなく示してくれました。残念ながら時間切れとなってしまい、終盤はかなり端折ってもらわざるを得ませんでしたが、高校生たちが鳥居の思想の中核部分と格闘した、本当に密度の高い取り組みの軌跡が凝縮されていました。参加者の多くが感動し、称賛と激励の声が寄せられました。研究史と対峙するところから、個別の研究は始まるものです。今年度の取り組みは、その重要な部分をしっかりと経験したものともいえます。これからの高校生たちの成長の糧になると確信しています。そして、これからさらに踏み込んでいってほしいとも思いました。本当にお疲れさまでした。
開会にあたり自己紹介 発表中。力の籠もったスライドと解説が次々と…
   
発表後、佐川正敏先生(東北学院大学)からコメントをいただきました 第2部の終盤、質問・意見に答えてもらいました 
 
3月3日(木)
 2年にわたる博学連携推進モデル事業に頑張ってくれた徳島市立高等学校歴史研究部に対し、館長から感謝状を贈りました。
 自ら学び、考え、大きく成長する高校生の姿を目の当たりにした経験を通じ、当館における学校教育との連携、学校教育への支援とは、学校教育のカリキュラム内で鳥居龍蔵を取り上げてもらうことだけではなく、課外活動等において、児童・生徒が一定のテーマについて、自ら掘り下げ、考えることを推奨し、サポートすることが重要ではないかと感じました。そうすることが、「未来の鳥居龍蔵」を生み出す力にもなっていくように思います。
 社会教育機関である博物館は、主体的な学びとその育成に貢献することが大切な役割です。学校教育と連携し、また県立博物館とも共同で、そうした方向性を模索したいと考えています。
 このように、当館にとってはモデル事業で得たものは計り知れません。ご理解、ご協力を賜った徳島市立高等学校に心からお礼申し上げます。そして、このページの更新もこれをもって終了します。
徳島市立高校校長室にて感謝状贈呈  みんなそろって記念写真

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